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取材した会社

「全部がおいしい」を、当たり前に。

2026.11.4 / インタビュー / 読了 8分 / 文:IforC 編集部 / 取材先:nove,(ノーヴェ)(田中オーナー・奥様)
※写真提供:nove,
料理がおいしい。接客が心地いい。スタッフ同士の雰囲気がいい。nove,をつくっている田中オーナーと奥様の話を聞いていると、そのすべては一本の線でつながっているように感じた。今回は、nove,の田中オーナーと奥様に、これまでの歩み、お店づくりで大切にしていること、そしてこれからについて聞いた。
CHAPTER 01「一つがおいしい」ではなく、「全部がおいしい」
nove,を続けていくうえで、一番大切にしていることって何ですか?
「これがおいしい」じゃなくて、全部がおいしいということを意識しています。 ありがたいことに、お客様からも「ここは全部おいしいよね」と言っていただくことがあって。それはすごくうれしいですね。 その中で、わかりやすく売りになるものを1つ決めることを意識して、お客様にどういうお店かをわかってもらう為にピッツァを売りにしようと考えていました。 よく来てくださるお客様だったら、「この方はこういう味が好きだよね」と考えることもあります。 前菜の盛り合わせも、リピーターの方なら毎回まったく同じでは面白くないので、一品だけ変えてみたり、今おすすめしたいものを入れてみたり。 お客様から何か要望があれば、できる限り答えます!
── 田中オーナー
それって、かなり細かいことですよね。
お客様が気づかないくらいのところを、ちょこちょこ、細かくやっていく。 その積み重ねがお客様の居心地の良さに繋がればいいなと思います。
── 奥様
CHAPTER 02本当は、長野に帰るはずだった

今では東京でお店を構える田中オーナーだが、独立前、その人生はまったく違う方向へ進もうとしていた。

実は、東京でお店を出す前は長野に帰る予定だったんですよ。 両親が長野で蕎麦屋をやっていたんですけど、それを畳むタイミングで「帰ってこないか」という話になって。 長野では、家とお店が一緒になった建物をつくる計画まで進んでいました。 でも心のどこかでは、まだ東京で挑戦したい気持ちもあった。 そんなとき、突然父から電話がかかってきたんです。 「本当は東京でやりたいんじゃないの?」 って。
── 田中オーナー
自分からは言っていなかったんですよね?
言ってないです。 だから、なんで分かったんだろうって。 たぶん、家族で計画していたお店の話をしているときに、「長野に帰ってくるの楽しみだね」と言われて、どんな反応をしたか。そういうちょっとした態度を見て、何か感じたんでしょうね。 父から、 「東京でやりたいんだったら挑戦した方がいい。長野の計画は全部キャンセルするから」 と言われました。 あの電話がなかったら、今ごろ長野にいたと思います。 母も後になって、「あのとき無理に長野へ連れ戻さなくて本当によかった。一生後悔するところだった」と言っていました。 本当にありがたいですね。
── 田中オーナー
CHAPTER 03蕎麦屋の息子が、料理の道を選んだ理由

田中オーナーは、幼い頃から料理人を夢見ていたわけではない。実家は蕎麦屋で、子どもの頃にはお店を手伝い、焼き鳥を焼いたり、厨房に立ったりしていたという。

ただ、本人には「料理人になるためにやっていた」という感覚はなかった。

料理を選んだ理由も、そんなに格好いいものじゃないんですよ。 高校を卒業するとき、大学に行かないなら、当時は美容師とか調理師とか、そういう選択肢が身近だった。 「美容師ではないな。じゃあ料理かな」 くらいの感じでした(笑)。 でも父や兄からは「昔から味にはうるさかった」と言われます。塩辛とか、子どもが好まないようなものも好きだったみたいで(笑)。
── 田中オーナー
CHAPTER 04野球少年だった田中オーナー

料理の世界へ進む前、田中オーナーが夢中になっていたのは野球だった。小学生から硬式野球を始め、中学、高校と野球を続けた。高校は長野商業高校。

甲子園を目指す環境の中で、後にプロ野球選手となる金子千尋さんらと同じグラウンドに立った。

小中学生の頃は、それなりに主力でやっていたので、高校でも「まあ、いけるんじゃないか」と思っていたんですよ。 でも高校に入ったら、全然違いました。 上には本当にすごい選手がいる。 自分はサードで、試合に出ることもありましたけど、レギュラーというよりはベンチ入りを争うくらい。 代打では結構打っていたと思います(笑)。 最後の夏前には病気で約2週間入院してしまって、筋力も落ちて、最終的にはベンチ入りできませんでした。 悔しさはありました。 ただ、プロを目指そうとは思わなかったですね。 近くですごい選手を見ていたからこそ、自分との差も分かった。 高校野球を終えて、料理の専門学校へ進みました。
── 田中オーナー
CHAPTER 05朝5時から終電まで。料理人としての原点

専門学校を卒業した田中オーナーが最初に就職したのは、都内のホテルだった。そこで待っていたのは、想像以上に厳しい料理人の世界だった。

本当に料理を覚えたのは、やっぱり現場です。 最初は、とにかく厳しかった。 朝5時に出勤して、帰りは終電みたいな生活でした。 下っ端なので、料理をつくるというより、まずは先輩たちが気持ちよく仕事できるように準備する。 まな板を用意したり、食材を準備したり、盛り付けをしたり。
── 田中オーナー
辞めたいとは思わなかったんですか?
めちゃくちゃ思いましたよ(笑)。 普通の会社員が本当にうらやましかった。 クーラーの効いた部屋で仕事をして、定時に帰れるって素晴らしいなって。 でも、結局2年くらい続けました。 今となっては無駄ではなかったと思っています。
── 田中オーナー
自宅のキッチンで料理をする田中オーナー(写真提供:本人)
CHAPTER 06「いつか自分のお店を持ちたい」

ホテルを離れた後は、イタリアンやフレンチ、ビストロなど複数のお店を経験した。田中オーナーの中には、早い段階から「いつか独立したい」という思いがあったという。

ホテルにいた頃から独立は考えていました。 「いつか自分でやりたい」と。 そこからイタリアン、フレンチ、ビストロといろいろ経験しました。 独立前の最後の1年くらいは、「自分がおいしいと思うピザをちゃんと勉強したい」と思って、ピッツェリアで働きました。 独立することは決めていたので、そのための勉強ですね。 でも、実際に自分のお店を始めると、同じようにはいかない。 窯も違えば、環境も違う。 教わった生地の配合をそのまま使っても、自分のお店では同じ仕上がりにならない。 そこからまた試行錯誤でした。
── 田中オーナー
CHAPTER 07お店の空気は、人がつくる

nove,が変わった大きなきっかけの一つが、奥様が本格的にお店に入るようになったことだった。

奥様が本格的に入るようになって、お店の雰囲気ってかなり変わりましたよね。 お客さんの側から見ても、すごく分かりやすかったです。 以前よりお店全体が明るくなった印象があります。
そう言っていただけると、うれしいです。 接客で大切にしたいと思っているのは、その場の空気を少しでも明るくできるかということで。 歩くパワースポットを目指しています(笑)
── 奥様
どうしたら、その空気をつくれるようになるんですか?
うーん、まずは自分が楽しんで働くことかなと思います。 楽しそうにしていると、お客様に伝わる気がして。 アルバイトの子たちにも、楽しいと思いながら働いてもらえたらうれしいですね。
── 奥様
CHAPTER 08マニュアルより、目の前の人を見る

接客について話していると、田中オーナーご夫妻が料理で大切にしていることと、サービスで大切にしていることが驚くほど似ていることに気づく。料理も接客も、「相手を見る」ことから始まっている。

この人たちはどういう関係なんだろう。 お客様は今何を求めているかなとか、どうしたら喜んでくれるかなとか。 そこを想像すると、自然と声のかけ方も距離感も変わってくる。 全員に同じマニュアル通りの接客をするのではなく、その人をちゃんと見ることが大事なんだと思ってます。
── 奥様
お店の様子。奥様が入るようになってから、お店の空気が明るくなったという
すごく分かります。 以前、接客の仕事をしていたとき、上司から「もっとお客様の中に入り込んでいい」と言われたことがあって。 最初はマニュアル通りに接客していたんですけど、お客様自身に興味を持って、一歩踏み込んで話すようになったら、急に売れるようになった。
相手に興味を持って、その人に合った距離感を考える。 あとは、私たちにとってはいつもの日常だとしても、お客様にとっては今日が特別な日かもしれない!と思って接しています。時間を割いて、数あるお店の中から選んでくださったことへの感謝を忘れないでいたいです。
── 奥様
自宅のカウンターに立つ2人(写真提供:本人)
CHAPTER 09一緒に働きたいのは「気持ちよく働ける人」

では、これからnove,で一緒に働くとしたら、どんな人がいいのだろう。

一番は、一緒にいて気持ちよく働ける人ですね。 明るい人。 といっても、ずっと喋っているとか、テンションが高いという意味ではなくて、考え方が前向きな人。 あとは、当たり前のことにちゃんと感謝できる人。 「ありがとうございます」が自然に出るとか。 まかないを作ってもらったら感想を伝えるとか。 帰るときにスタッフ一人ひとりに「ありがとうございました」と言えるとか。 そういうところに、人柄って出ると思うんですよね。
── 田中オーナー
外観
CHAPTER 10自分で考える。でも、チームで動く

一方で、飲食店だからこその難しさもある。「自分で考えて動くこと」と「お店として一つになること」。その両方が必要になるからだ。

自分の考えを持っている人はすごくいいと思います。 「こうした方がいいんじゃないですか」と提案してくれることもありがたい。 でも、お店って最終的にはチームなので。 それぞれが好き勝手に動いたら成り立たない。 言われたことだけをやるのでもないし、自分の意見だけを押し通すのでもない。 そのバランスが大切だと思います。
── 田中オーナー
CHAPTER 11次につくるのは、ピンチョス&ワインバー

nove,の物語は、ここで終わらない。田中オーナーご夫妻は現在、新しいお店の構想を進めている。ピンチョスとワインを楽しめるお店だ。そのため、これから新しい仲間も必要になる。

新しいお店をやるとなったら、当然、人が必要になります。 だからこそ今から、どういうお店なのか、僕たちが何を大切にしているのかを伝えていきたい。 求人だけを見て来てもらうというより、僕たちの考え方を知ったうえで、「ここで働いてみたい」と思ってくれる人と出会えたらいいですね。
── 田中オーナー
CHAPTER 12振り返れば、全部がつながっている

実家の蕎麦屋を手伝っていた少年時代。野球に打ち込んだ学生時代。高校最後の夏に味わった悔しさ。料理の専門学校。朝5時から働いたホテルでの厳しい下積み。イタリアン、フレンチ、ビストロ、ピッツェリアでの経験。長野に帰ろうとしていたとき、父からかかってきた一本の電話。

独立。そして、nove,。一つだけを切り取れば、遠回りに見える経験もある。しかし、田中オーナーは言う。

結局、全部意味があったと思うんですよね。 あの経験がなかったら、今この立ち位置にはいなかったかもしれない。 実家が蕎麦屋じゃなかったら、料理を選んでいなかったかもしれない。 父からあの電話がなかったら、東京でお店をやっていなかったかもしれない。 そう考えると、本当にいろんな人に感謝ですよね。
── 田中オーナー
CHAPTER 13「全部がおいしい」の、その先へ

「一つがおいしい」ではなく、「全部がおいしい」。それは料理だけの話ではなく、人も、接客も、空気も含めて。新しいお店と新しい仲間が加われば、その「全部」は、もう少し大きくなっていく。

nove,で、ケーキを手に笑う2人(写真提供:本人)
NOTE取材を終えて

筆者がnove,に初めて足を運んだのは、2018年ごろ。知り合いを介して紹介してもらい、そのまま通うようになった。第一印象は、料理がおいしいことと、お店がおしゃれなこと。コロナが明けて、久しぶりにお店に入ると、印象は変わっていた。人が増え、賑わいが増していた。料理が変わったわけではない。お店の空気が、変わっていた。

理由は、すぐに分かった。田中オーナーと奥様が、それぞれの場所で、それぞれの人と向き合っている。その姿が、お店全体の温度をつくっている。夫妻の人柄が、人を引き寄せている。料理がおいしいお店は、たくさんある。おしゃれなお店も、たくさんある。その二つに、人が集まる理由まで揃っているお店は、多くない。nove,が次にどこへ行くのか。その途中を、また見に来たいと思う。

※現在、nove,ではスタッフを募集していません。

将来の募集を知りたい方、nove,のようなお店で働いてみたい方は、IforCまでご連絡ください。募集状況を確認したうえで、ご相談を承ります。

ご連絡先:IforC WORKSの応募・相談フォーム、または公式LINE

nove, のお店情報(2026年11月時点)
項目内容
住所東京都新宿区改代町27-4 クレスト神楽坂 1F
アクセス東京メトロ有楽町線 江戸川橋駅 4番出口から徒歩2分
営業時間ディナー 17:00〜23:00(L.O.22:00)/ランチ 土日祝 11:30〜15:00(L.O.14:30)
定休日火曜(祝日の場合は営業)、ほか月1回不定休
電話03-6280-7519
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