日本経済新聞の2026年8月23日の記事は、AIが情報整理や分析を担う範囲が広がるなかで、新卒採用で体育会系学生への注目が高まっていると伝えています。評価されているのは競技実績そのものではなく、厳しい練習を続ける力や、周囲と信頼関係を築いて成果につなげる力です。
企業の動きも具体的です。体育会系学生だけを集めた合同説明会への出展や、企業から学生へ直接声をかけるダイレクトリクルーティングで、接点を増やしているといいます。
新卒人材紹介サービスを手がけるポートについても、2026年卒の採用を行った企業のうち約1割にあたる約150社が、採用条件の一つに「体育会系経験」などを明記したと報じています。社数は5年間で3倍以上、割合は約1.5倍になりました。
ただし、この数字は日本企業全体の統計ではありません。特定のサービスを利用した企業の話です。数字の大きさに引っぱられると、実態を取り違えます。
生成AIが得意なのは、情報を集めること、要約すること、資料のたたき台を作ること、データを整理することです。この部分が速くなると、人の仕事は「その先」に移ります。相手の本音を聞き出すこと。説明して納得してもらうこと。意見の違う人を調整すること。決めて、動かすこと。
コンサルティングの仕事も同じです。調査や分析の一部はAIが担えますが、課題を聞き出し、提案を説明し、関係者を巻き込んで前に進める仕事は残ります。だから、対人能力の価値が相対的に上がる、というのが報道の論点です。
報道とあわせて読みたいのが、未知株式会社とMUGEN BIONIC株式会社が2026年6月に行った調査です。採用担当者76人に聞いています。
ここが求職者にとって大事なところです。見られているのは、結果ではなく過程です。全国大会に出たかどうかより、その人がチームの中で何をしていたか。だから、ベンチだった人にも、けがで離れた人にも、書ける材料があります。
ただし、設問は「4年間、部活動や課外活動を続けた経験」についてです。競技の成績や、レギュラーだったかどうかを聞いた調査ではありません。
ここは、はっきり書いておきます。体育会の経歴と、対人能力の高さは同じではありません。体育会に入っていれば全員が高い対人能力を持つわけではないし、研究室、学生団体、アルバイト、起業、ボランティアでも、チームで問題を解く経験はできます。
ネット上には、「体育会系」という経歴を能力の代理指標にすることへの疑問もあります。AI時代だから体育会系、という説明よりも、企業がストレス耐性や組織への適応力を求めているだけではないか、という見方もあります。どちらも企業の公式見解ではなく、反応として紹介されているものです。
採用する側も、体育会だから採る、という選び方はしなくなっています。評価されているのは、スポーツをやってきたという事実ではなく、そこで身についた動き方です。
準備するのは3つです。役割、学び、挫折。調査で上位に来た観点と、そのまま重なります。
役割は、ポジションではなく動きで書きます。「副キャプテンでした」ではなく、「練習の前に、後輩のフォームを見て回っていた」。学びは、具体的な場面から取ります。「挨拶を大事にしていた」ではなく、「試合前に、相手の控え選手にも声をかけていた」。挫折は、乗り越えた話にしなくても構いません。乗り越えられなかった経験のほうが、面接ではよく聞かれます。
職務経歴書なら、3行で足ります。「部活動:硬式野球部(4年)/役割:練習前の後輩指導と、試合前の準備進行/学び:段取りを自分で組み、遅れを取り戻す動き」。数字は競技の数字でなくても書けます。週に何回、何年間、何人の前で。期間と頻度があれば、説得力は出ます。
面接で「体育会系だから、根性はあるんでしょ」と振られたら、根性の話をしないほうが得です。「きついときに、何を変えたか」の話に置き換えてください。根性ではなく、工夫の話にしたほうが、仕事の中身に近づきます。
AIを使った経験も、1つ入れておくと強いです。「ChatGPTを使えます」ではなく、「下書きを作らせて、事実確認と判断は自分でやった」。任せた部分と、自分で決めた部分を分けて話せると、対人能力の話ともつながります。
体育会じゃないと不利ですか。 調査の設問は、4年間の部活動や課外活動の継続についてです。体育会でなくても、続けた経験と、その中の役割を話せば同じ材料になります。
レギュラーじゃありませんでした。 3位に入った話より、ベンチで何をしていたかのほうが聞かれます。声を出していた、相手の癖を記録していた、後輩に教えていた。どれも役割です。
AIを使った経験がありません。 ツールの話でなくて構いません。何を任せて、何を自分で決めたか、が聞かれているだけです。
確認できたこと。 日経の記事の見出し・日付(2026年8月23日)と、そこに書かれている数字(体育会系限定の合同説明会、ダイレクトリクルーティング、ポート経由で約150社・5年で3倍以上)は、日経を引用した解説記事(AI速報ドットコム、2026年8月24日)で確認しました。調査の数字は、発表元のプレスリリース(PR TIMES、2026年6月26日)で確認しています。
確認できていないこと。 日経の本文そのものは、有料のため取得できていません。日経の表現を一字一句そのまま引いているわけではなく、要旨として書いています。日経の本文と細部が違う可能性は残ります。
数字の限界。 調査はn=76のインターネット調査で、日本の採用担当者全体を代表するものではありません。約150社という数字も、特定の紹介サービスを利用した企業の中の話です。どちらも、日本全体の傾向として一般化はできません。
書いていないこと。 「過程が評価される」というこの記事の主張は、上の数字と公開情報から組み立てた編集部の解釈です。因果関係を示すデータではありません。数字は、主張の補強として使っています。
AI時代に体育会系が見直されているのは、スポーツが特別だからではありません。人と向き合い、役割を果たし、続ける力が、仕事の現場でそのまま要るからです。同時に、体育会という経歴は、その力の証明にはなりません。証明になるのは、場面と行動です。
競技をやってきた人は、材料をすでに持っています。足りないのは、言葉にする作業だけです。役割、学び、挫折。この3つを、面接の前に1時間だけ書き出してみてください。